杉本文楽『曾根崎心中』、ヨーロッパ凱旋公演決定! 文楽人形遣い・桐竹勘十郎氏に聞く ──「和の変容」特別インタビュー

(c) Hiroshi Sugimoto|Courtesy of Odawara Art Foundation

本誌4号の連載「和の変容」第3回で、「大阪の庶民が生んだ世界遺産文楽」と題し、文楽の魅力について紹介した。その文楽を、ニューヨーク在住の現代美術家・杉本博司が構成・演出し、舞台美術も手がけた『杉本文楽 曾根崎心中付り観音廻り(そねざきしんじゅうつけたりかんのんめぐり)』が初演されたのは2011年8月のこと(神奈川芸術劇場)。作品は2013年秋、マドリード、ローマ、パリで巡演し喝采を浴び、フランス『ル・モンド』紙では1面を飾った。
 この春、東京と大阪でおこなわれる凱旋公演を控え、文楽東京公演中の楽屋に桐竹勘十郎を訪ねた。
[取材:小野幸恵|協力:公益財団法人小田原文化財団]

小野幸恵
PROFILE

小野幸恵

編集者・ライター

おの・さちえ:編集者、ライター。日本の伝統芸能やバレエなどの舞台芸術を守備範囲とする。著書に『日本の伝統芸能はおもしろい』全5巻(岩崎書店)、『狂言にアクセス』『落語にアクセス』(淡交社)、『幸四郎と観る歌舞伎』(アルテスパブリッシング)など。近著に『焼け跡の「白鳥の湖」──島田廣が駆け抜けた戦後バレエ史』(文藝春秋)がある。

『杉本文楽 曾根崎心中付り観音廻り』について

2011年3月に初演される予定が東日本大震災で延期となり、ようやく8月に初演されたこの作品は、映像を駆使した斬新な演出で話題を呼び、舞台の様子はNHKのテレビ番組でも紹介された。通常の文楽公演では上演されていない冒頭の「観音廻り」を復活させ、人間国宝の鶴澤清治が新たに作曲、江戸時代さながらの一人遣いで桐竹勘十郎が演じた。人形の衣裳がエルメスから提供されたスカーフで作られたことも話題になった。  

  マドリード、ローマ、パリと巡られて、お客様の反応はいかがでしたか?   多くのお客様に観ていただいて公演としては成功でした。パリ公演はかなり前から決まっていたこともあり、報道でも大きくとりあげていただきました。またフランスの方は文楽をよくご存知なので、とても喜んでくださいました。パリの前に急遽、マドリードとローマにも行くことになって、けっきょく1カ月間。正直しんどかったです(笑)。ご意見はいろいろあるとは思いますが、文楽をよくご存知でない方には、古典の文楽と両方を見比べてほしかったようにも思います。   映像を使った演出が話題になりました。暗い舞台で、人形遣いの方は黒衣に頭巾で通されたのですよね。   舞台は真っ暗。蛍光テープを小さく貼ってもらったのですが、頭巾越しだと薄ぼんやりとしかわかりません。まるで蛍の明かりみたいです。フランスでは赤と青の小さなランプをつけてもらって、それを目安に中心線を探して動きました。ところが、ランプが人影に隠れたりすると途端に困ってしまうわけです。とくに冒頭の「観音廻り」は、人形の顔向きを決めるのに中心線を探しながらで大変でした。   初演とは劇場の大きさも演出が異なるようですが、そのあたりは如何でしたか?   行く先々で劇場の大きさが違うのが悩みの種でした。初演は大劇場です。ところがマドリードとローマはとても小さい。パリはそこそこの広さがありましたが……。このように大きさが変わると、舞台の趣もそのつど変わってきますし、人形を遣う方も足の運びも変えなくてはなりません。慣れた舞台だと感覚でわかるのですが……。冒頭のシーンは、現代美術家の束芋(たばいも)さんのアニメーションが映し出されるのですが、つねにスクリーン映像を意識しながら動かなければならないのが難しかったです。   「観音廻り」で登場する一人遣いの人形は、この作品のために作られたのですよね。   古い文献を参考に作りました。江戸時代の絵がいくつか残っているので、それを参考に大きさを割り出して、頭(かしら)も胴も手もイチから作ってもらって、衣裳は自分で縫いました。いちばん難しかったのは構造です。昔の人はどのようにしてひとりで遣っていたんでしょうねぇ。なかなか遣えないもんだなぁ……というのが正直な感想です。   DSC02179   舞台の構造が通常の文楽と異なり、人形遣いの方の足元まで見えるんですよね。   最後の心中のシーン。お初が死んだ後は小さく小さく、これ以上小さくなれないくらい小さく丸まってうずくまるんです。いつも舞台だと隠れてしまうところが見えていますから、いくら黒衣を着ていても、それはめだたないようにしなければいけない。一人遣いであることも含めて、このお初を遣うのは、いつもの『曾根崎心中』を3回遣うくらいのエネルギーを必要とします。 東京、大阪、ともにはじめての上演です。ぜひ、多くの方に観ていただきたいと思います。   ●公演情報 http://sugimoto-bunraku.com/   作:近松門左衛門 構成・演出・美術・映像:杉本博司 作曲・演出:鶴澤清治 振付:山村若   [東京公演] 会場:世田谷パブリックシアター 3月20日(木)  19:00 3月21日(金・祝)13:00 3月22日(土)  13:00/18:00 3月23日(日)  13:00 A席9000円 B席6000円   [大阪公演] 会場:フェスティバルホール 3月28日(金)  19:00 3月29日(土)  13:00 3月30日(日)  13:00 S席9000円 A席7000円 B席4000円 BOX席12000円