湯浅学×村井康司
チャーリー・パーカーから大友良英まで〜ジャズの70年を聴く 『JAZZ 100の扉』刊行記念トークショー(四谷「いーぐる」にて収録)

JAZZ 100の扉
JAZZ 100の扉 アルテスパブリッシング

昨2013年11月、村井康司さんの新著『JAZZ 100の扉』発売にタイミングを合わせて、音楽評論家の湯浅学さんをゲストに迎えてのトークショーを開催した。1940年代から2000年代まで、7つのディケイドからお二人がそれぞれ1枚ずつ選んだ計14枚のアルバムを聴きながらお喋りしていこうという趣向だ。
会場となった「いーぐる」店主・後藤雅洋さんもブログでお書きになってるとおり、「まさに談論風発」「大笑いの連続」だったやりとりをお楽しみいただこう。

PROFILE

湯浅学

ゆあさ・まなぶ■1957年横浜市生まれ、膨大な量の音楽を聴き、書き続けている音楽評論家。。82年に根本敬、船橋英雄と幻の名盤解放同盟を結成。95年、自身のユニット「湯浅バッテリー」を結成。九六年に湯浅湾と名を改め2011年にサード・アルバム『港』を発表している。『ボブ・ディラン ロックの精霊』(2013、岩波新書)、『音楽を迎えにゆく』『音楽が降りてくる』『ドントパスミーバイ』(以上河出書房新社)ほか多数の著書・共著がある。

PROFILE

村井康司

むらい・こうじ■1958年函館生まれ。学生時代はジャズ・ビッグバンドでギターを弾く。編集者の傍ら1987年よりジャズ・ライターとして執筆を始め、『ジャズジャパン』『ジャズ批評』や、『CDジャーナル』などの音楽誌に寄稿。CDのライナーノーツも多く手がける。著書に『ジャズの明日へ──コンテンポラリー・ジャズの歴史』(2000)『ジャズ喫茶に花束を』(2003、ともに河出書房新社)、共著に『ジャズ“名盤”入門』(2006、宝島社)ほかがある。上智大学文学部新聞学科卒。

【1940年代】

1.チャーリー・パーカー『TOWN HALL NEW YORK CITY JUNE25,1945』1945

チャーリー・パーカー『TOWN HALL NEW YORK CITY JUNE25,1945』1945   村井:今日はこんなにたくさん来ていただいてありがとうございます。村井康司です。このたび『JAZZ 100の扉』という本を出しました。それで、今日は僕の大好きな湯浅学さんに来ていただいて、話をすることになりました。湯浅さんも『ボブ・ディラン』という本を岩波新書から出されたばかりで、気分が高揚しているのでは… 湯浅:してないよ(笑)。ほっとしているだけだよ。 村井:そうですか(笑)。今日は僕の本の中から、湯浅さんと僕が10年ごとに2枚ずつ選んできたんだけど、まあ全部はかけられないと思うけど、時間を見計らっていこうと思ってます。湯浅さんはアナログレコードとモノラルカートリッジも持ってきてくださったので、アナログも聴きたいと思っております。僕の本は、いちおう「チャーリー・パーカーから大友良英まで」というサブタイトルの本で、これはアルテスの鈴木さんがつけてくれたんだけど… 湯浅:今年は大友って書いておかないとね。 村井:そうですねえ。「菊地成孔まで」にはしなかったと。 湯浅:それは今年はだめだよな(笑)。大友良英の上に「あまちゃん」ってルビふって下さい(笑)。 村井;さて、最初はチャーリー・パーカーをかけようと思います。必ずしも時系列でかけることはないんですが、ここはパーカーが大好きな後藤さんの店でもありますし。『TOWN HALL NEW YORK CITY JUNE25,1945』というCDから。これはタウンホールの録音係の人の家だかにあったラッカー盤が2005年に見つかった、というものですね。そこから〈グルーヴィン・ハイ〉という曲をかけます。   ♪〈Groovin' High〉   村井:えー、うるさいタイコはシドニー・カトレットというスウィング時代の人で、バスドラを4つ打ちしてしまうあたりに時代的限界を感じますが、パーカーとガレスピーについては、もう最高ですね。湯浅さんは聴く音楽の範囲がめちゃくちゃに広くて深いという超人的な人なんですけど、ビバップって好き? 湯浅:昔はよく聴いてましたけどね、なんか難しい感じがします。 村井:同時代の、40年代後半のアメリカ音楽だと、たとえばジャンプ・ブルースとか… 湯浅:もちろん根はつながってるけど、そっちの方をいっぱい聴いてたからね。36年前に友だちの家にパーカーのLPがあってね、それを聴いたときに「これは超人だ!」と思ったんだけど、よくみたらLPを45回転でかけてたのね(笑)。それ以来、俺はパーカーは超人だ、と思うようになって、いや33回転で聴いてもすごいんで。当たり前だけど。 村井:こないだ変なことをやったのね。パーカーの音源をパソコンでAudicityというソフトに取りこんで、あれってピッチやテンポを変えられるから、アルトをテナーの音域にしてみて、レスター・ヤングになるかと思ったらならなかった(笑)。次にレスターのテナーをアルトの高さにして、パーカーになるかと思ったら、レスターがアルトを吹いてるだけという(笑)。 湯浅:それだけかよー。 村井:パーカーはレスターを尊敬していて、いっぱいコピーしたといわれているんだけど、やっぱり全然違うんだよね。 湯浅:あれは間合いが違うのかな? 村井:音の使い方もリズムの取り方も違うよね。 湯浅:100メートル走でも、ウサイン・ボルトとベン・ジョンソンでは全然走り方が違うもんね。平泳ぎはもっとすごいよ、以前禁止泳法だったのが今は標準だから。 村井:で、誰かがやると、だんだんみんなが出来るようになるんだよね。でも最初に新しいことをやる人ってすごいよ。 湯浅:最初にやる、というか、最初にできた人がすごいよね。でもさ、中国の奥地にパーカーよりすごいやつがいたかもしれないとか(笑)、砂漠の果てにもっとすごいのがいるかも、とか思ったりするけど、発見されないと存在しないことになるからね。あ、発見といえば、俺が酔っ払ってない村井さんと話をするの、これで二度目なんです(笑)。 村井;いつも酒場でしか会わないもんね。 湯浅:俺が行く酒場って2軒しかないんだけど、そのうちの1軒のカウンターにいつもいるの。でも、あんまり変わらないよね、そのときと今と。 村井:そう? 今に寝ちゃうかもしれない。 湯浅:寝てるのか起きてるのかわかんない状態っていうのがずっと続いてんだね、村井さんって。 村井:そうですか。それってなんかバカみたいですね。 湯浅:よくわかんないけど。でもこう見えても、オレのほうが年上なんだよ。 村井:1歳違うんですよね。 湯浅:学年が2つ違うのかな。 村井:早生まれです。 湯浅:じゃ、1つ違いだ。  

2.ファッツ・ナヴァロ『ノスタルジア』1946, 1947

ファッツ・ナヴァロ『ノスタルジア』1946, 1947   村井:じゃ、次、ファッツ・ナヴァロにいきますか。 湯浅:この本、40年代の盤って5枚しか入っていないんだよ。5枚のうち、2枚ずつ選んだら残り1枚しかないじゃん。 村井:ディジー・ガレスピーだけ落ちちゃって、かわいそうに(笑)。 湯浅:ま、ガレスピーは、今のに入ってるからね。 村井:これ、45年のパーカーからって決めちゃったんでね。その前が入らないからしょうがないんです。 湯浅:何がいいですかね。 村井:〈ノスタルジア〉もいいけど、 湯浅:いいけど、飽きたね。 村井:うーん、ちょっとね。 湯浅:でもやっぱりさ、村井さんも書いている通り、歪み成分が多いよね。 村井:多いですよね、ファッツ・ナヴァロは。 湯浅:そこが好きなとこですね。 村井:どれにしようか。 湯浅:4曲目。   ♪〈Fats Blows〉   村井:さっき湯浅さんおっしゃっていたように、僕も書いているんですけど、なんかファッツ・ナヴァロのトランペットってまっすぐに飛んでこないで、ちょっとなんかチリチリしているっところがね、ベルがゆがむというか。 湯浅:なんか、かわいいですよね 村井:かわいい。ハワード・マギーなんかもそうなんですけど、ビバップの頃の、ガレスピー以外のトランペッターって割とこういう音色の人が多くて、それがなんか実に味わい深いというか、面白い。 湯浅:そうね、クリフォード・ブラウンなんかは上手すぎて怖いよね。 村井:ジャズ・ミュージシャンは上手すぎて怖い的な人が多いんだけど、たとえば湯浅さん、昔から凄く好きなニューオリンズの人でデイヴ・バーソロミューってトランペッターだっけ? 湯浅:そうですね。 村井:あの人のプレイってどんな感じなんですか? 湯浅:あれはわりとのんびりしてる。ガレスピーなんかより、ファッツ・ナヴァロのほうが近いかも。でもあんまり吹かないからね。バンマスだし。あと、歌バンが多いですからね。楽団のリーダーって意外とソロってあんまりとらないよね。それに作曲家だから、みんなを見張ってるのが多いのと、デイヴって、ファッツ・ドミノの面倒見てたでしょ。ファッツ・ドミノってものすごく迷信深くて、用心深いんだよね。あの人の面倒みるだけで相当大変らしいよ、って地元の人に聞きましたけど。あとファッツ・ドミノって、ヨーロッパとか、イギリスにツアーでよく行っていたでしょ。その場合、飛行機に乗せると落ちちゃう可能性があるので、2つのバンドを用意してバラバラに乗せるんで、凄いお金かかるんだって。 村井:それすごいですね。 湯浅:あと待ち合わせしてもなかなか来ないから、どうしたのかな? と電話すると、「今日猫見た」、みたいな。黒猫見たから今日は休み。 村井:いいね、それ。黒猫休み。 湯浅:日本にいたら大変だよね。宅急便見ただけで家帰らなきゃならない(笑)。大変なことになっちゃう(笑)。でもファッツ・ドミノって物凄いスターなんだけど、そういう意味では大変な人だったらしいですよ。まだ生きてるからあれですけど。 村井:生きてますね。 湯浅:オレね、ファッツって付く人、好きなんですよ(笑)。 村井:ファッツ・ナヴァロ、ファッツ・ドミノ、ファッツ・ウォーラー。 湯浅:デブ好きなんだよ(笑)。チューバ・ファッツ。デブ専でオヤジ専だから(笑)。 村井:ファッツ…それはいいですね(笑)。 湯浅:歳とったお相撲さんとか、大好きでさ。 村井:(爆笑) 湯浅:増位山のサインとか持ってるの。あ、あれデブじゃないんだよね。 村井:増位山ね。歌上手いね。 湯浅:歌上手いから取材に行ったんだけどさ。ハイ、それだけなんですけど(笑)。

【2000年代】

3.大友良英ニュージャズ・オーケストラ『アウト・トゥ・ランチ』2005

大友良英ニュージャズ・オーケストラ『アウト・トゥ・ランチ』2005   村井:というわけで(笑)⋯ 湯浅:今日は脱線はしょうがないからね、まともに聞いてもらっても困るんですけど。 村井:さっき湯浅さんと話したんだけど、時代順にやっていって、最後のほうが聴けなくなるとつまんないんで… 湯浅:じゃー、次、大友ですか。 村井:もう大友です。あまちゃん、かけます(笑)。 湯浅:ブラッド・メルドーとか別にウチで聴けばいいじゃん(笑)、みたいな。そんなことねえか、ごめんごめん(笑)。 村井:でも〈潮騒のメモリー〉じゃなくて⋯ 湯浅:〈地元へ帰ろう〉じゃないの?(笑) 村井:〈地元へ帰ろう〉もありますけど(笑)、『アウト・トゥ・ランチ』。これって、エリック・ドルフィーのをまるごとカバーしていて、1曲だけオリジナルが入っているんですけど、これが、2005年、笙とかサイン波とか、今や大ヒット作曲家になったSachiko M先生のサイン波も入って。 湯浅:なんかみんなで、今年の大友の収入がいくらになるか、って計算してるんだけどさ(笑)。もっと経費使わせようぜって(笑)。来年大変だから。 村井:大友さんと仲のいいミュージシャン3人が話をしてて、「まぁ、大友はいいよね。でもSachiko M に印税が入るのはどうしても許せない」とか酷いこと言ってたって。 湯浅:いいじゃねえかよ、別に(笑)。 村井:それでこの、『アウト・トゥ・ランチ』の中の2曲目に〈Something Sweet, Something Tender〉って曲があって、これ、ドルフィーはバス・クラで、スローでやっている曲なんですけど、それを大友さんは笙のハーモニーをつけて出しました。笙をバーッと吹いた時の不協和なハーモニーを管にバラしてやったというやつなんですけど。 湯浅:これは大友の凄く緻密なことろがでていると思うんですよね。 村井:これはほんとに凄いと思います。 湯浅:ジャケット写真もいいですけどね。 村井:森山大道。でもこれCD屋で自分の顔が大写しになって驚いた人もいるでしょうね。 湯浅:あ、オレだ! みたいな。驚くよね。 村井:あ、今日、沼田さんいないよね? 湯浅:でもこれ、アナログ出せばいいと思うんだけどな。沼田さんとこじゃ無理かなぁ(笑)。 村井:いや、誰かが出してあげればいい。 湯浅:そうだね、これはアナログ欲しいですね。   ♪〈Something Sweet, Something Tender〉   村井:これ、ある意味なんか映画音楽っぽいよね。 湯浅:これ雅楽ですね。 村井:『雨月物語』とかさ、そういうサントラとか。 湯浅:武満っぽいね。 村井:たぶん大友さんって、映画音楽家として一番武満さんのこと好きだったと思うんですけど。 湯浅:これ、サイン波を二人でやっていて、なんか笙っぽいなって思ったのかもしれないね。 村井:それはあるかもしれないですね。 湯浅:電子音楽と雅楽ってすごい近い感じしますね。 村井:近いですね。雅楽は好き? 湯浅:大好き。電子音楽もっと好き。オレ昨日たまたま中古でね、『ミュージック・フォー・マース』っていうボックスセット買ったのよ。 村井:それはどういうのなんですか? 湯浅:マース・カニンガムの楽団の劇盤をCD10枚組にしたものなんですけど。っていうか、俺、小杉(武久)さんが大好きで。小杉さんの下僕ですから。「これ片づけておいて」って言われれば「はい、はい」って片づける役回りなので(笑)。電子音楽に限らず、いろんなライヴ・エレクトロニクスとか入っているんですけど、雅楽ってさ、即興性を感じにくいでしょ。だけど持続音をみんなで重ねていくっていうのでは、西洋の中では一番雅楽と近いのが電子音楽なのかもしれないですね。このアルバムって幸せな気分になるね。 村井:幸せっていうか充実してますよ。 湯浅:おれ、家でオリジナルの『アウト・トゥ・ランチ』と、これをミックスで聴いたことがあるんだけど、なかなかいいですよ、バカバカしくて(笑)。 村井:ちょっとドルフィーに聴かせたかったな。 湯浅:なんかねー。でも、オリジナルもこの100選に入っているじゃないですか。 村井:入ってますね。 湯浅:それはなに故、両方入れたんですか。 村井:わざと両方いれてみたんだけど。 湯浅:やっぱり。 村井:ドルフィーは1枚は入れたいな、と思ってて、何にしようかな、と思った時に、大友さんはこれに決めていたから、じゃ、敢えて同じの入れて、両方聴いてください、っていうのがあったんですけど。でも大友良英さん凄いと思ったのは、今みたいな曲も実は、『あまちゃん』のサントラにちゃんとあるんだよね。 湯浅:入ってる、入ってる。 村井:それがほんと、おもしろい人なんだけどね。 湯浅:こういうのばっかりでやったら打ち切りだったね(笑)。 村井:毎朝、誰も見ない(笑)。 湯浅:見る人100人ぐらいで、物凄くコアなファン。 村井:キッド・アイラック・ホールみたいになっちゃう(笑)。 湯浅:この本の中で、ドルフィーがなんであんなことしてたか、っていうのがなかなか分かりにくい、っていうのは確かにそうじゃないですか。コイツ、基準なんだろう?っていう人の一人ですよね。 村井:吉田隆一さん(バリトンサックス奏者)が深く研究してて、いろいろ教えてもらったんだけど、奏法とかはプロはわかるらしいんだけど、音の選び方みたいなのはやっぱりよくわからないんだって。 湯浅:あー、やっぱりね。なんかほんとはアメリカ人じゃないのかも、この人。 村井:宇宙人だって説がありますけどね。 湯浅:糖尿病で星に帰ったのかな。 村井:あのコブの中にアドリブ脳が入っている、っていう説があるんですよ。 湯浅:あー、いいね。 村井:で、アドリブ脳で電波受信して、吹いていた。これって加藤総夫って人が昔そう言っていたんですけど。それ、合っているような気がしますよね。 湯浅:サン・ラーの映画で、空から地球に向けて演奏するっていうのがありましたけど、そういう人たちがいたんだよね。 村井:ま、ジャズ界にはけっこう宇宙人いますからね。 湯浅:相倉久人先生とかね。 村井:自分で言っていますけどね。 湯浅:自分で言っているほど怪しいヤツはいない。  

4 ビル・フリーゼル『ディスファーマー』2008

ビル・フリーゼル『ディスファーマー』2008   村井:え-、次は湯浅さんのセレクト。 湯浅:ビル・フリゼール『ディスファーマー』。このアルバムはなぜ100枚に選んだんですか? 村井:これはですね、僕はわりと最初のほうの何枚かが好きで、『イン・ライン』とか、『ランブラー』とか。そっちにしようかなと思ったんですけど、せっかく現役バリバリの方なので、新しめを選びました。彼の一番不気味なところが上手くでてるかな、と。 湯浅:でもこれは、すごく端正な演奏がいっぱい入っているのと、ハンク・ウィリアムスのカバー〈Lovesick Blues〉とか、プレスリーでも有名なアーサー・クルーダップの〈That's Alright, Mama〉とか。〈Lovesick Blues〉って、ハンク・ウィリアムスですけど、これがあったんで、ボブ・ディランが〈Love Sick〉書いたんじゃないですか? 村井:なるほど 湯浅:と思ったんだけど、自分の本には書かなかった。書き忘れて後で気がついた(笑)。もう校正戻したあとでね、ダメでした。 村井:鉛筆で書いておいてください。 湯浅:お願いします。 村井:どれ聴きますか? 湯浅:じゃ、19曲目の〈I Am Not A Farmer〉   ♪〈I Am Not A Farmer〉   村井:今湯浅さんとちらっと話してたんだけど、ちょっと大友良英っぽい、みたいなこと。フィドルがすごく不協和、わざとヘンな音で弾くところが随所にあって、その気持ちワルイとこがすごいカッコイイんですけど。ビル・フリゼールって一番最初にインタビューしたのって、僕1990年ぐらいなんですけど、その時チャールズ・アイヴスがすごい好きだ、って言っていたの。それ、すごくわかるよね。 湯浅:この人さ、一番最初はロフト・ジャズみたいなとこにいたんだっけ? 村井:いや、最初ベルギーで音楽学校の先生やっていたの。バークリー出て、ベルギー行っちゃったの。その頃、チェット・ベイカーとかやっているんですけど、でも 当時からこのフニャフニャ感は変わらないの。70年代のおしまいぐらい、ECMのサイドメンだったのね。この人面白い人ですよ。物凄く温厚な人で、ゆっくりしゃべってくれるし、 湯浅:親切? 村井:親切っていうか、紳士。 湯浅:なんか俺、ビル・フリゼールはカッコイイと思って、クライン・ギター買ったんですよ。でも、俺はリズムしか弾かないから、無駄なんで、売りました(笑)。 村井:最近のビル・フリゼール、テレキャスターになっちゃった。ここ10年ぐらいかな? テレキャスターにもどったんですけど。 湯浅:このディスファーマーって写真集があるんでしょ? 写真屋のおやじがモデルというか、メインテーマ。このシリーズ、ずっとやっているじゃないですか。アメリカの庶民っていんですか? 村井:アメリカの田舎の無名の人、なんだけど、ヘンな人、好きみたい。そういえば今年、ビルはハンター・トンプソンの書いた「ケンタッキーダービーは腐ってる」っていう有名なルポがあるでしょ。 湯浅:あるあるある。 村井:あれを朗読っていうか、Dr.ジョンとか、アーニー・ロスとかが、しゃべってるの。その音楽をビル・フリゼールがやってるCDが1枚出てて、非常に面白いんだけど、本人はギター弾いてなくて。 湯浅:プロデュースだけ? 村井:作・編曲。管楽器3〜4本とストリングス。 湯浅:それ、面白いですね。帰ったら、ポチッてみます。 村井:テキストを見ながら聞くと、英語の勉強になります。物凄い速度でしゃべりまくるから(笑)。 湯浅:ま、そうだよね。あれ、そういうテキストだもんね。いろんなことやってるからなー。 村井:ビル・フリゼール、ホントに最近いろんなことやっているんですよ。 湯浅:ちょっと大友と並べると楽しいですね。どっちもギタリストだし。 村井:すごく謙虚な人なんだよね。前に来た時に「サブコンシャスリー」って曲あるじゃない。あれ、やったんですよ。凄い良かったんで、「素晴らしいですね」っていったら、「いや、僕なんか全然ダメで、あのテーマ弾くだけで必死なんだよ」って。 湯浅:なるほどね。なんて正直な。 村井:いい人だな、と思いましたけど(笑)。

【1950年代】

5 ハービー・ニコルス『ハービー・ニコルス・トリオ』1955, 1956

ハービー・ニコルス『ハービー・ニコルス・トリオ』1955, 1956   村井:じゃ、次は50年代にしましょう。湯浅さんのアナログも早く聴きたいし。 湯浅:ほんと? 村井:じゃ、僕最初にね、どっちがいいかな? ハービー・ニコルスとモンク。 湯浅:ハービー・ニコルスだね。ハービー・ニコルスをカバーする人、最近結構いるんですね。 村井:僕は、タック・ベイカーっていうギタリストがやってるのが好きなんですけど。ハービー・ニコルスなんとかプロジェクトみたいなのあるでしょ。 湯浅:あるある。それ、お茶の水のディスクユニオンで見た。 村井:曲は〈ハウス・パーティ・スターティング〉にしようかな。   ♪〈House Party Starting〉   村井:僕、この本の中で、垂直系ピアニストっていうのがいるって書いたんですけど、エリントン、モンク、ハービー・ニコルス、セシル・テイラーとか。この人は凄くうまいんだろうけど、流麗にバド・パウエル的な弾き方をしない、頑なにしない、という面白い人ですね。 湯浅:村井さんが選んだのって、ハービー・ニコルスとモンク。これ同じタイプだよね。 村井:そうですね。 湯浅:ゾウムシとカメムシ、みたいな(笑)。 村井:モンクがゾウムシ、って感じかな。わりとこういうタイプの人が好きで、逆に今新しく聞こえる、みたいなところがあるかな、ハービー・ニコルスって。 湯浅:そうですね。なんか今聴いてても、古い感じが全然しないですね。 村井:そう。この人の曲って、シンプルに聞こえるけど、すごいヘンだったり、ワンコーラスの小節がヘンだったり。あと、明るい曲っていうのが殆どないっていうのもすごいよ。 湯浅:全篇どんよりした曇り空なんだよね。あんまり昼間起きたことないのかな? 村井:そうかもしれないですね(笑)。 湯浅:ま、想像ですけどね。 村井:ぜんぜん売れなくて、大変だったみたいですね。ディキシーランド・ジャズとかやってたらしいんだけど。 湯浅:バイトで? 村井:バイトで。 湯浅:シェイキーズでやってたのかな?(笑) オレの知り合いもバイトしてたよ、あそこで。バンジョー弾いていた。 村井:かわいそうですね。 湯浅:1日4回ぐらいやらなきゃいけないらしい。あ、また話がそれちゃうからやめましょう。でも、オレね、ピアニストではモンクが一番好きなんですけど、選ばれちゃったんで、やめました。モンクのレコードって音のいいのがないね。 村井:あー、なるほど。リバーサイドのとかは? 湯浅:モノ盤がどうしても欲しいなと思って買いにいくと、高くて。なかなか難しいものがありますね。 村井:リバーサイドの先生いない? あのね、神保町に「グラウアーズ」ってジャズ喫茶ができて、そこの店主はリヴァーサイドのほぼコンプリート・コレクターなんですよ。しかも、ジャズだけじゃなくて、全部もってるって感じなんですよ。 湯浅:へー。 村井:そこに行くと、惜しげもなく聴かせてくれますよ。 湯浅:あーいいなー、それ。行こう。  

6 アート・ペッパー『モダン・アート』1956, 1957

アート・ペッパー『モダン・アート』1956, 1957   村井:では湯浅さん、今日アナログを何枚か持ってきてくださって、しかもカートリッジも、モノのカートリッジをお持ちいただいた。 湯浅:シェルターの501モノを持ってきました。じゃ、アート・ペッパーをモノで聴いてみましょう。   ♪〈Blues In〉   湯浅:これ、ディスクユニオンの再発盤なんだけど、けっこう高いの。 村井:5000円ぐらいするんですけど。 湯浅:日本制作ですが、盤はアメリカ・プレスです。 村井:これ、すごい良かったね。 湯浅:やっぱりこの人モダンだよね。 村井:モダン。 湯浅:だからハービー・ニコルスと比べると、やっぱり育ちの違いがある感じがするな。 村井:育ちは、どうかな-。 湯浅:わかんないけどさ。想像ですよ。 村井:この本の中で書いたのは、50年代ジャズ界の三大イケメンっていて、アート・ペッパーと、スタン・ゲッツと、チェット・ベイカーなんですけど、三大ジャンキー・ジャズメンでもある、っていう恐ろしい人たちなんですよ。 湯浅:そうだよね。 村井:アート・ペッパーってさ、ディスクグラフィみるとよくわかるんだけど、ある時からパタっとなくなるんですよ。で、その間何をしていたかというと、刑務所にいた。 湯浅:山口冨士夫だね。伊藤耕っていうか(笑)。2年に1回は入っちゃう(笑)。 村井:そういえばさ、全然関係ないんだけど、このあいだ街を歩いていたら、「しゃぶしゃぶ ぽん太」っていうのがあってさ、爆笑しましたけど(笑)。 湯浅:あー、浅草にあるの、「しゃぶ道楽」(笑)。「もう1個しゃぶつけろよ」って、まずいよね(笑)。 村井:チェット・ベイカーって、日本に晩年80年代に何回か来ていて、某お医者さんでもあるジャズ評論家の方がインタビューしたら、「オレは薬なんか一切やってない。すごくクリーンな人間だし、信じてくれ。ところで、薬持っていないか?」(笑) 湯浅:なんの薬だよ!(笑) 村井:すばらしい方々ですね。 湯浅:しょうがないですね。でもスタン・ゲッツってものすごく好みというわけではないんですが、なんか息が抜ける感じで特徴あるじゃない。アート・ペッパーはそこを持ちこたえる感があるから、すごくお手本になる。 村井:スタン・ゲッツは実は物凄く、堅い、太い、ガチガチのリードを使っているらしく、あのリードであの音を出すのは、大変難しいんだそうです。 湯浅:あー、なるほどね。 村井:でも、あの人(スタン・ゲッツ)凄いよね、コンビニ強盗とかやったんだよね。 湯浅:そうそうそう。なんか優男っぽいところが凄いよね。やってることめちゃくちゃで、パンクだよね。 村井:パンクすぎますよ。もっと酷いのは、『ゲッツ/ジルベルト』ってあるじゃない。あの時に〈イパネマの娘〉で、アストラッド・ジルベルトが歌ってますでしょ。あれ、飛び入りで、契約書に書いてなくて、その場で歌ってシングルになったんですよ。 湯浅:ヒットしたね。 村井:クリード・テイラーのところに、スタン・ゲッツが電話してきて、「アイツは契約交わしてないから、アストラッドに金、払うな」と言った。 湯浅:アハハハ。言ったんだ。なんかスタン・ゲッツは金に汚いっていう話はよく聞くよね。あと、ホテルの部屋を3つ予約させたとか。そういう話はいっぱいありますよね、この辺の人。 村井:最近のジャズ・ミュージシャンは、そういうおもしろい話がないんですけど、昔は大変でしたよね。 湯浅:あとでかけるけど、ギル・エヴァンスも大変でしょ。あの人も山盛りの粉がないと出来ないとか。プーさんが言ってたよ。 村井:(笑)じゃ、ここで、いったん休憩。

【1990年代】

7 ケニー・ホイーラー『ミュージック・フォー・ラージ&スモール・アンサンブル』1990

ケニー・ホイーラー『ミュージック・フォー・ラージ&スモール・アンサンブル』1990   村井:じゃ、次は1990年代に行こうと思うのですが。 湯浅:ここになると、さすがにアナログがあんまりないねぇ。 村井:僕の2枚選んだ中で、今日は、ケニー・ホイーラーをかけようと思います。 湯浅:いいですね。 村井:ジャズのガイドブックで100枚、って言った場合に、あんまり入ってこないのは、ラージ・アンサンブル系でね、僕自分が、ビッグ・バンド出身っていうのもあるんで、数えたら、デート・コース(ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン)とかもいれると10枚ぐらいあるんですよ。 湯浅:けっこう多めですよね。オレ、ふだんビッグ・バンドばかり聴いているからさ。娘がビッグ・バンドやっているから。 村井:あ、ホント。楽器はなにやっているの? 湯浅:バス・トロンボーン。 村井:トロンボーン。いいなー。デイヴ・テイラーとか好きでしょう。あ、知らないか。 湯浅:デイヴ・テイラーって何? 知らない。 村井:このあいだミッシェル・カミロのビッグ・バンドで来てたよ。デイヴ・テイラーってバス・トロンボーンの超大御所で、バス・トロの人って、テイヴ・テイラーとデイヴ・バージェロンが有名でね。この人は、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズの時に来日した人で、この人はテナー・トロンボーンもやるんだけど。 湯浅:両方やる人多いですよね。 村井:テイヴ・テイラーはバス・トロンボーン専門なんですよ。 湯浅:じゃ、帰りにさっそく探してみよう。 村井:ケニー・ホイーラーという人は、イギリスで活動しているんだけどカナダ人なんです。日本では、キース・ジャレット、デイヴ・ホランド、ジャック・ディジョネットとの4人でやってECMから出た『ヌー・ハイ』っていうアルバムで有名になったのね。どっちかっていうと、自分のラージ・アンサンブルのほうが、僕は面白いと思っているんですよ。最近のジャズ・オーケストラって、サックスの人がフルートとかもやって持ち替えるじゃない。この人のアレンジは一切持ち替えないの。あと、トランペットとかトロンボーンにミュートをつけない、全部オープン。だけど、柔らかい響きを出す、っていうちょっと不思議な人なんです。この人ももう83歳かな。日本には1回か2回かしか来てなくて、しかも自分のバンドじゃなくて、ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラで来たんです。一度ぐらい自分のビッグ・バンドで来てくれないかなぁ、と思っているんですけどね。では聴いていただきましょう。   ♪〈Sophie〉   村井:実はこれ凄い豪華メンバーで、特にリズムセクションが凄くて、ピアノがジョン・テイラー、ギターがジョン・アバークロンビー、ベースがデイヴ・ホランド、ドラムがピーター・アースキン、おかしいのは、サックスはエヴァン・パーカーがちゃんとテナー・サックスを吹いてる。無駄に豪華な人たちがソロを吹かずにアンサンブルを吹いてる。 湯浅:すごいね。トラだったのかな? 村井:ま、ケニー・ホイーラーってフリー・ジャズも実は得意な人で、エヴァン・パーカーとも仲いいみたいですけど。そう言えばね、瀬川昌久先生にこの本が出た時にお贈りしたら、先生は今88歳かな? ファックスを送って下さって、何が書いてあったかというと、「まず、ケニー・ホイーラーを取り上げたことは、エライ!」と書いてあった(笑)。さすが瀬川先生、と思いました。 湯浅:なるほどね。  

8 ハル・ウィルナー『ウィアード・ナイトメア』1992

ハル・ウィルナー『ウィアード・ナイトメア』1992   村井:では次、湯浅さんの選んだので。 湯浅:この本って、ミンガスが多いですよね? 村井:多いですね。 湯浅:偏愛してるの? 村井:偏愛しているっていうか、面白いオッサンだな、と常々思っておりましてですね。 湯浅:『ミンガス 自伝・敗け犬の下で』だっけ? すごいよね、あの本も。 村井:ムチャクチャな人ですよね。この人もかなりヤバイ人らしくて、練習中にショット・ガン持ってくるとか聞きますね。 湯浅:殴っちゃうとか。 村井:そう、ジミー・ネッパーというトロンボニストが、ミンガスに殴られて、商売道具の歯を全部折られたってね。「これが折られた歯だ」って、見せてくれるらしいですよ。 湯浅:大変ですよね(笑)。 村井:で、かけるのは、ハル・ウィルナーの『ウィアード・ナイトメア』というミンガス曲集なんですけど。 湯浅:90年代って、キップ・ハンラハンもそうなんですけど、ハル・ウィルナーもプロデューサー、コンポーザーでしょ。まぁ、ハル・ウィルナーは曲はあんまり書かないのかな? バンドマスターじゃなくて、レコードの制作マスターみたいな人が表にでてくる感じですよね。 村井:いわゆるプロデューサーじゃなくて、名前がちゃんと出てて、その人の責任において音楽をつくる。 湯浅:企画盤といえば企画盤なんだけど、読み直しをする、っていう時代に90年代はだいぶ入ってきたかな、と思うので、この2枚を選んでみました。キップ・ハンラハンのライブとか行くと、アイツがステージにいるじゃん、うしろのほうに邪魔っけな感じで。もっと弾けとか、言ったりするんだよね。 村井:あのうろうろしているのはおもしろいですよね。 湯浅:キップ・ハンラハンって、よくしゃべるんだよね。 村井:あ、そう。インタビューしたの? 湯浅:した、した、した。うるさいんだよ。 村井:なんの話したの? 湯浅:なんかいろいろ。あの人、ニューヨークでもブロンクスでしょ。まわりラテンの人ばっかりで、なんで、「アメリカン・クラーヴェ」っていうレーベル名にしたの? とかいう話をしたの。そしたら、「クラーヴェはオレの心だから」とまともな答えをするわけ。ほら、映画作っていたじゃん。 村井:ゴダールの助手やってたんでしょ。 湯浅:あと「ジャズ・コンポーザーズ・ギルド」だっけ? これ、手伝っていたんでしょ? 村井:JCOA(the Jazz Composers Orchestra Association Inc. )かな。 湯浅:みんながガーッといて、小間使いとか、文句言うやつとか、そういう役割をしてたんでしょ。落ち着きのないヤツなんだよ。音楽的にもだけど。ハル・ウィルナーをかけるんだけど、キップ・ハンラハンの話をしてるんだけどさ。 村井:そういう不思議な話になっていますね。 湯浅:「自分の環境の中にあるいろんな音が、自分のやっている音楽に影響を及ぼしているのではないか」と質問したら、「それは考えたことはなかったが、その通りだ!」って言うから「あ、そうなんだ」と思ったら、「いいこと聞いてくれた」っていわれたの。そしたら、次の人のインタビュー読んだら、その通りに言ってやがってさ、(爆笑)「それ、オレが聞いたことだろう」ってことがありました(笑)。 村井:そうですか-(笑)。 湯浅:キップ・ハンラハンってサッカーが好きなんだよね。すぐサッカー見にヨーロッパとかいっちゃうんで、連絡とりにくいって言ってましたね。 村井:一度、東大の駒場でキップ・ハンラハンと平井玄とかでトークショーがあってね。ブロンクス対新宿2丁目みたいな。 湯浅:やだな、その対決。 村井:たしかに山のように喋ってましたね。 湯浅:すごい喋るんだよね。喋ってないと落ち着かないんだって(笑)。で、ハル・ウィルナーは「ナイト・ミュージック」とかのテレビもやってたじゃない。あれにレジデンツとかサン・ラーも出てたじゃない。それで番組を見始めたんだけど、だんだんいろんなところに出てくるようになって、最初、フェリーニの「アマルコルド・ニーノ・ロータ」をきいて、これは素晴らしいと思って聞き始めたんです。語りとか、響きとかが面白いレコード多いですよね。 村井:これ、ミンガスの曲集なんだけど、ハリー・パーチというアメリカの現代音楽の作曲家が作ったヘンな楽器があるんですけど、それを使ったっていうのが面白いですね。 湯浅:じゃ、〈エクリプス〉を聴いてみようかな。これ、ディアマンダ・ギャラスとレナード・コーエンが語りとかヴォイスで入っているんです。こうやってみるとけっこうカッコよさげなんだけど、ハゲなんです(笑)。 村井:キップ・ハンラハンもそうだよね、 湯浅:喋りに気押されちゃって、容姿はあんまり覚えていない。 村井:アハハ。じゃ、聴いてもらいましょう。 ♪〈Eclipse〉 村井:今日は雅楽が多いな。 湯浅:ディアマンダ・ギャラスにしては綺麗な声だね。 村井:そうだね(笑)。 湯浅:これでもね(笑)。 村井:これ、ギターがビル・フリゼール、クラリネットにドン・バイロンなんですけど、ものすごい低音が入っていて、この席で聞いてるとジャケットの裾が震えちゃうんだよね。ゴング・エロイカっていうハリー・パーチが作った、巨大なゴングみたいなの使っているんですけど、なんかアメリカ人ってヘンな人いるじゃない。 湯浅:いっぱいいる。ヘンな人の方が多いと思ったほうがいいね。 村井:それをもってきたところが面白いな。 湯浅:特に音楽やるアメリカ人は、ほとんどが変人ですね。音楽売るのは変人じゃないけど、作るのは変人多いです。 村井:湯浅さん、変人すきでしょ(笑)。そんなことない? 湯浅:変人だから好きな訳じゃないよ。 村井:たまたま音楽好きになったら変人だった(笑)。 湯浅:そうそう、好きな音楽を辿っていくとどうもそうらしい。来年、サン・ラーが生誕100周年なんですよ。前に『ミュージック・マガジン』で「てなもんや三裸笠」という連載をしてたんですけど、それからもう10年たっちゃったんで、今度それを本にしてくれることになりました。 村井:すばらしい。やりましたねー。 湯浅:その10年間に、復刻されたサン・ラーの音源がものすごーっく多いんだよ。それを今あさっているんですけど、財力がもたないのでどうしようかな、と思ってるんです。 村井:サン・ラー集めるの、大変そうだもんね。 湯浅:サン・ラーの棚ね、うちは棚、広いよ。でもみんな同じようなものなんだよね、って言っちゃいけないんだよね(笑)。 村井:僕も一枚、選びましたけどね、 湯浅:あれは最近よく中古で売ってますよ。 村井:『ライヴ・アット・モントルー』(130頁) 湯浅:ピーター・バラカンさんの『ウィークエンド・サンシャイン』で、先々月だったかなサン・ラーの特集やって、朝7時20分から9時まで、ずっとサン・ラーがかかるっていう画期的な番組だったんだけど。 村井:ス・テ・キ。 湯浅:「これ、大丈夫かな?」って言ってたんだよ。そしたら、思いのほか反響が良くて、ピーターが喜んだらしい。すごく珍しい番組だから。 村井:「ウィークエンド・サンシャイン」ってけっこう過激な番組だよね。前にお正月に拡大版で4時間もらって、ピーターと関口義人さんと3人で、「ワールド・ミュージックとジャズ」っていう番組やったの。あの二人が凄いモノばっかり持ってくるわけ。 湯浅:ブラスばっかり? 村井:ブラスもあったけど、カンボジアの民俗楽器でショーターの〈フットプリンツ〉やってるやつとか。 湯浅:それすごいね。 村井:そういうのばっかり、4時間かけるの。しかも元旦の昼。 湯浅:それならオレ、元旦に4時間生やったことあるよ、根本敬と山崎春美で。 村井:凄いですね。 湯浅:もうメチャクチャな番組。4時間ずっとしゃべっている後ろで、シンセ二人で弾きまくってるっていうのをインターFMでやったんですけど、それ以来呼ばれなくなりました。 村井:アッハハハ、凄い。テレビと違ってラジオはわりと大らかで、特にNHKは大らかですよね。 湯浅:そう、オレもずっとやってるんだけど、NHKのゴンチチの番組の選曲をやってますけど、商品名さえ言わなければ、大丈夫だよ。 村井:僕、実は1月の2日、3日に、NHK-FMで、東京ジャズを全部かけるっていう番組の収録中なんですけど、12時間あるの。発狂しそうになる。 湯浅:凄いですね。『今日は1日ジャズ三昧』に出たことあるよ。エッヂの効いたジャズ、っていうヘンなくくりで、好きな曲かけていいですよっていうから、勝新太郎かけた。勝新、いっぱいジャズやってるからね。 村井:やってますね。なるほど。 湯浅:NHKはすごいよ、『今日は1日ニュー・ウェイブ三昧』を小野島大がやってたり。なに考えてるんだろう(笑)。 村井:『三昧シリーズ』は、全国のNHKの人たちがオレこれがやりたいって、すごい言ってくるんだって。 湯浅:オレの知り合いにNHK大阪のヤツがいて、「今日は1日プログレ三昧」っていうのをやってたけど、ソイツ、いつもGURU GURUのTシャツ着てるの(笑)。そいつとは『ポップス・アーティスト名鑑』っていう番組を13年ぐらい前だったか夜中にやってたんですよ。ロックの歴史をオレが語るっていう番組で、ひどかったよ、裸のラリーズとかかけたりして。でも10年に一度ぐらい、「その番組聞いてました」っていう人に会うんだよね。やっぱり国営放送凄いなー。 村井:『三昧シリーズ』ってだんだん音楽ものじゃなくて、『鉄道三昧』とかやってるらしいよ。 湯浅:そう、それ! 何やるのかと思ったら、駅のアナウンスとか流すっていってたよ。一番人気は『今日は1日アニメ三昧』だね。あれは何回もやってる。みんなラジオ聞いてください。 村井:聞いてください。じゃ、90年代はこれで次、60年代。

【1960年代】

9.デューク・エリントン『マネー・ジャングル』1962

デューク・エリントン『マネー・ジャングル』1962   村井:これは僕が選んだやつで、湯浅さんがアナログ盤のモノを持ってきてくれました。 湯浅:オレ、選びたいな、と思ったら、村井さんのリストに載ってて。悔しいので、アナログを持ってきました。 村井:デューク・エリントンの『マネー・ジャングル』です。 湯浅:これ最高だよね。山本精一っているじゃん、アイツがエリントンの最高傑作はこれですなーって言ってた。山本精一が言うんだから、相当ヤバイ。 村井:僕はこれね、エリントンもさることながら、チャールズ・ミンガスが凄い。ワン・コーラス、ずっとベンベンベンベンだけっていう、もうキチガイの集団みたい。 湯浅:今日はモノラル盤を持ってきましたから。 村井:音の塊が押し寄せてくると思います。   ♪〈Money Jungle〉   湯浅:これがね、ミンガスとエリントンがやってる、っていう。 村井:デューク・エリントンは恐るべし、なんですよ。 湯浅:なんか嫌なことあった時、よく聴いてますよ。 村井:ストレス解消ですか(笑)。 湯浅:実はこの盤だと逆相で、音の丸め込みがあるんですけど、CDは整理されてわりと聴きやすくなってますね。 村井:そうですね。このアナログ・モノで聴くとすごいね。ヤケクソ感すごい。 湯浅:マックス・ローチがおとなしく思えるね。 村井:そうですね。しかしミンガス、随分はりきっちゃったんだね。 湯浅:これ、ザ・フーの〈マイ・ジェネレーション〉みたいだね。 村井:確かにそれある(笑)。この時、デューク・エリントン63歳なんですね。 湯浅:さすがですねー。お金に苦労しただけのことはありますねー。 村井:〈マネー・ジャングル〉(笑)。これは大好きなアルバムで、あと、〈キャラヴァン〉も好き。 湯浅:この〈キャラヴァン〉が凄いんだ! 村井:破壊的キャラヴァン。 湯浅:何千回キャラヴァン演奏したかわかんない人が、こんなことするんだよね。 村井:年間300回はやってる人が、40年やってるわけだからね。 湯浅:こんなかよ。これはぜひ買って帰ってほしい。CDだったから簡単に買えるし、ボーナストラックたくさん入っていて、すごくオトクだし。それをモノラルにして家で聴く(笑)。 村井:そうだね。じゃ、次また湯浅さんので。  

10 アルバート・アイラー『スピリチュアル・ユニティー』1964

アルバート・アイラー『スピリチュアル・ユニティー』1964   湯浅:じゃ、アイラーかな。これもモノで、ESPのオリジナル。B面の1曲目。 実は大学の時、これ聞いてジャズもっと聞いてみよう、と思った。アイラーってよく位置づけがわかんないじゃん。おねえさんの歌入れて、ヘンなアルバム作っちゃったりするし。だけどこの人、ホントはゴスペルがやりたかったんじゃないかと思うんですよ。 村井:そうだね。この間『ゴーイング・ホーム』がまた再発されたけど、あれは完全にゴスペルだけだもんね。 湯浅:ボックスが出たじゃないですか。 村井:アイラー箱。 湯浅:あれ聞くと、楽隊の人なんだなっていうのが、すごくよくわかる。それからだいぶ、わだかまりが解けたというか、わかるようになってきた。それと、手前味噌というか宣伝ですけど、俺のボブ・ディランの本の副題が「ロックの精霊」なんですけど、精霊って「スピリット」でしょ。この曲のスピリットのイメージでディランの本は書いたんですよ。 村井:ふむふむふむ。 湯浅:「精霊」っていうと、この曲なの。強引にもそこに持っていくまでに240頁もかかってて、その間に1回もその言葉がでてこないんだよね。 村井:じゃ、聞いていただきましょう。   ♪〈Spirits〉   村井:〈スピリッツ〉、凄いですね。アイラーも凄いけど、オレ、ゲイリー・ピーコック凄いと思うんだよね。今や、随分おじいちゃんになっちゃっているけど。柔らかいというか、フニャフニャしてますけど、この頃、ホント凄いね。 湯浅:休まないね。 村井:先月だったかな、ここ「いーぐる」で、ESP特集っていうのをESPコレクターの須藤輝さんという方がやったんですよ。あとで話をきくと、恐ろしいものがたくさんかかったらしい。 湯浅:いっぱいあるからね。『クロマニヨン』とか『ゴッツ』とか。 村井:最近、ツイッターのオンライン上で、その人と吉田隆一さんとでジュゼッピ・ローガンの話題ですごいもりあがって、 湯浅:あ、ジュゼッピ・ローガンって、生きてたんでしょ? 村井:生きてる。ジュゼッピ・ローガンってサックス奏者で、死んだか生きてるのかわからなくて、行方不明だったんだけど、どうやらホームレスだったらしいよ。でも自分のCDとか作っているらしいんですよ。 湯浅:あ、その話、村井さんから聞いたんだっけな? 村井:10ドルで売っていて、「20ドルのお札しかない」ってお客がいったら、「じゃ、10ドル分、今から吹く」っていって、10秒ぐらいバーッと吹いて終わったっていうの(笑)。 湯浅:現金取引ですね。ジュゼッピ・ローガンねー、これがまた暗いんだよねー。 村井:暗いですよね。 湯浅:オレ、フランク・ライトが大好きで、ニューオリンズでライヴ見たことがあるんだけど、すごい良かった。 村井:フランク・ライトいいよね。ESP特集またやるらしいので、ぜひいらしてください。 湯浅:すごい勇気ありますね。やっぱESPいいよ、いい加減だし(笑)。

【1980年代】

11 菊地雅章『ススト』1980, 1981

菊地雅章『ススト』1980, 1981   村井:はい。じゃ次、80年代いきます。私が選んだのは、菊地雅章さんの『ススト』。これは今や定番ということになるんでしょう。 湯浅:クラブでも人気の作品ですね。 村井:デートコースペンタゴン・ロイヤルガーデンが立ち上がったときの最初のレパートリーの1つですからね。では、その中から〈サークル/ライン〉を。   ♪〈サークル/ライン〉   村井:僕、見に行ってないんだけど、この『ススト』が発売されてわりとすぐに、プーさんが帰国してコンサートをやったんだって。レコーディング・メンバーを連れてこようとしたら、みんなにキャンセルされて、しょうがないから近くでウロウロしているアメリカ人を何人か連れてきたら全然できなくて、プーさんが怒鳴り散らしてるだけっていう状態だったらしい。 湯浅:そりゃ、そうだろう。でも、見たかったなぁ。 村井:それ、菊地成孔さんが言っていたんだけど、半分ぐらい誇張っていう気もしないでもないけど、そうだったみたい。 湯浅:もう20年ぐらい前かな、オールナイト、オールライト、オフ・ホワイト・ブギ・バンドは、ちゃんとしてましたよね。 村井:まあ何枚かライヴ盤は出たけどね。 湯浅:あれ、けっこう好きで見にいったりしたけど、ブランドン・ロスいたよね? 村井:いたかもしれない。 湯浅:あれは、すごいよかったなぁー。 村井:あと僕ね、これも20年以上前かな? 渡辺貞夫さんが昔、渋谷で「ブラバスクラブ」ってやっていたでしょ。そこでプーさんのバンドと貞夫さん、っていうのがあったんですよ。このテのやつをやっていて、ほとんど1時間1曲みたいな。貞夫さんが、演奏終わったあとに、「みなさま、お騒がせしました」って言ったんですよ(笑)。おもしろかったですよ。 湯浅:我々は70年代に貞夫さんを聞いてジャズを教えてもらったんじゃなかろうか、って話をしたけど。 村井:ナベサダとジャズ。 湯浅:毎週聞いていたし。その頃の貞夫さんって今はあんまり聞かれてないでしょ。そのあとでしょ、よく聞かれるようになったのは。 村井:最近なんかさ、60年代の日本のジャズって、いっぱい出てるんですけど、貞夫さんはあまりに正統すぎて掘るって感じもないんでね。でも、『ラウンド・トリップ』とか『ペイサージュ』とかの70年頃のってけっこう好きなんですけど。 湯浅:けっこうっていうか、かなりいいんじゃん。 村井:でもまぁ、かなり悩んだんだけど、この100枚に貞夫さんは入っていないんです。最後の最後まで悩んだんだけど、「この1枚」ってならないんだよね。 湯浅:あー、なるほどね。 村井:どっちかというと総合力の勝負みたいな人だから。いろんなことやってるし。ビバップもあるし、ボサもあるし、フュージョンもあるし。 湯浅:でも前に、紅白歌合戦に松田聖子が出たときに、貞夫さんが吹いたじゃないですか。みてて、ホントに上手いなぁ、さすがだな、って思いましたね。 村井:いまだに、お元気ですしね。去年かな、インタビューしたんですけど、ほんとに、しっかりした方なんですよ、いろんな意味でね。では、次は80年代、湯浅さんの1枚にいきましょう。  

12 ラウンジ・リザーズ『ザ・ラウンジ・リザーズ』1980

ラウンジ・リザーズ『ザ・ラウンジ・リザーズ』1980   湯浅:ラウンジ・リザーズですが、これはアナログ、ステレオ盤です。ラウンジ・リザーズって最初フェイク・ジャズとか言われて、これ、発売された時すぐ買ったんですけど、アート・リンゼイが入っているとオレ買うんだよ。80年に日本がYMOの時代だった時にこんなことわざわざやるのか、と新鮮だった。参考にDNAもってきましたけど、これキップ・ハンラハンのアメリカン・クラーヴェから出てるんだよ。なんかそういうシーンって繋がってるじゃないですか。ハンラハンにアート・リンゼイのこと聞いたら、アイツは全然チューニングできないから教えてやろうと思ったら、「そんなことどうでもいい、オレにそういうこと教えるな」って言われたらしい。で、キップは「アイツは本当のアーティストだと見直した」って言ってた。 村井:わかる、わかる。 湯浅:だから未だにチューニングしないらしい。 村井:あの人、12弦ギターにさ、弦9本とかしか張ってないでしょ。 湯浅:うん、切れたら張らないんだよね(笑)。あのダンエレクトロの12弦ギター、1回盗まれちゃって、似たようなの見つけてきてもらって弾いたら、前とは違う音がするって悩んでましたけどね。 村井:そうかー、わかるな。僕、このラウンジ・リザーズのジョン・ルーリーのチャラチャラした演劇性の中にいきなりアート・リンゼイが物質をドス、って感じが面白いと思うのよね。 湯浅:このアルバムは好きですけど、他のはあんまり面白くないですね。 村井:そうですね。では聞いてみましょう。   ♪〈ドゥ・ザ・ロング・シング〉   湯浅:けっこういい音ですね。これ、プログレのレーベル、EGですね。 村井:それでプロデューサーが、なぜかテオ・マセロなんだよね。 湯浅:そうそう。でもこれ簡単なテーマをやりあっているからね。ドレミファソラシ。 村井:♪チャーチャチャチャって。なんかプラスチックスみたいだね。 湯浅:そうそうそう。今年はやりのドレミファソラシド。譜面簡単そうだよね。 村井:まぁ、そうでしょうね。80年代って感じ、ホントするね。 湯浅:どっちも今かけたのって、80年なんだよね。同じ年に作っていた。

【1970年代】

13 ギル・エヴァンス『スヴェンガリ』1973

ギル・エヴァンス『スヴェンガリ』1973   村井:で、いよいよ、最後に残ったのが、70年代なんですけど。 湯浅:オレ、70年代が一番聴いていた。家で探してたら70年代の盤が一番多い。 山下洋輔トリオとか気合い入れて聴いていたし、一番ジャズ聴いていたのも70年代なのかな、と最近思いました。 村井:70年代って、だいたい学生でしょ? 湯浅:ほぼ学生と浪人。だって、70年代って中・高・大でしょ。 村井:僕もそうなんですけど、70年に中学入って、80年に大学卒業してるから。 湯浅:オレは69年入学だからね、アポロ11号の年に中学1年。 村井:じゃ、最後の70年代の曲を、湯浅さん、どうぞ。 湯浅:デレク・ベイリーといきたいところですが、ここはギル・エヴァンス、『スヴェンガリ』。ここんとこ小説家の保坂和志さんと定期的にあって、話するんだけど、あの人ギルが大好きで、よく聴いてるって話してたんだけど、彼はスティーブ・レイシーとやっている『パリ・ブルース』とかが好きなんだって。オレはビッグ・バンドばっかりなんだよね。だから聞き直したりしているんですけど。で、かけるのは、「イレヴン」。これCDじゃないとフル・ヴァージョンが聴けないんですね。 村井:そう、オリジナルのLPは1分半ぐらいで終わっちゃうの。テーマだけですからね。 湯浅:こんなに長くなっていたんだね。 村井:フルレングス版、では聴きましょう。   ♪〈Eleven〉   湯浅:いやぁ、素晴らしい。 村井:僕は自分でビッグ・バンドやっているんですけど、この曲演奏したことあるんですよ。これね、じつは凄く難しいの。ギルのトランスクリプションが一応出てて、ギル・ゴールドスタインがやっているやつなんですけど、11拍子で書いてある譜面と、4拍子で書いてあるのと2種類あるんですよ。これ、11拍子で書くと♪タタータ、タタータ、タタタタでひとかたまりなんだけど、すごいやりにくいので、4拍子に割っちゃうわけ。で、一生懸命練習して「横浜ジャズプロムナード」というライブにでたわけ。「イレヴン」始まった瞬間に突風が吹いて、全員の譜面がバーッと飛んで、「あーーーーっ」(笑)。 湯浅:(笑)それ、やるな、ってことじゃないの。 村井:あれは泣きましたね。 湯浅:それ、すごいね。娘の高校のOBバンドでも、たしかやってたと思う。 村井:80年代頭ぐらいから、ギルの曲って大学とかビッグ・バンドでよくやっていたんです。 湯浅:でもなかなかこういう風にならない(笑)。なるわけねぇか。  

14 オーネット・コールマン『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』1973, 1976

オーネット・コールマン『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』1973, 1976   村井;では最後の1曲となりますが、私の70年代。 湯浅:村井さん、大学は何年入学? 村井:76年。 湯浅:じゃ、ちょうど真ん中ですね。その頃って『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』って、手に入りにくかったよね。 村井:僕、ここ(いーぐる)で聴いたの。最初なんだかよくわかんないな、と思っていたんだけど、だんだん気持ち良くなってくるんだよね。 湯浅:オーネットってそういうの多いね。オレ、息子とやっている『エンプティ・フォックスホール』はなかなかわからなかったんだけど、あるとき、あれは息子を追っかけて聴いちゃだめなんだと思った。ところが、息子を大人二人が追いかけてるからフォックスホールなんだ、とわかったら、急に楽しくなってきて。わかるまでに30年ぐらいかかった。 村井:あれ、息子のデナードが10歳の時ね。バスドラに足が届いていない頃。 湯浅:あれ、すごいよね。親子でやるか! 村井:じゃ、最後の曲聴いてください。   ♪〈Theme From A Symphony (Variation Two)〉   湯浅:なんか盆踊りのようになってきましたね 村井:これもまた「あまちゃん」的な、ファミレド、ミレド、しかないっていう。 湯浅:このハネがいいよね。 村井:めでたい感じですね。 湯浅:右チャンネルのギターの人ものすごいがんばっているんですけど。 村井:今日は湯浅さんゲストに呼んでよかった。ゲストの方によって、全然変わるから。 湯浅:そりゃ、そうですね 村井:ウィントン・ケリーとミッシェル・ペトルチアーニを選ぶ人がいたら全然違うし展開になるし。 湯浅:ウィントン・ケリーも好きですけどね。 村井:湯浅さんに来ていただこうときめた時から、こういう展開になると思っていました。 湯浅:でも心残りなのは『ブリージン』聞けなかったことだなぁ。けっこうLPいい音なんだよ。あと『キアズマ』。セシル・テイラーの『インデント』も。でもこれ、最近なかなか売ってないんだよね。 村井:そうですね、あんまり見ない。 湯浅:レーベルがブラックライオンだもんね。 村井:『ガーデン』もあんまり売ってない。 湯浅:JCOAはよく売ってますけどね。この間も1日に3枚見ましたよ。あと『集団投射』もちょっと考えたんだけどね。 村井:僕も考えたんですけど、ちょっと厳しいかな、ということでやめました。 湯浅:でもこの100枚って基本だよね、ほんとに。 村井:基本ですよ。 湯浅:でも、今日はチャーリー・ミンガスの日ですかね。 村井:ミンガスはたくさんかかりましたね。あとやっぱり、僕らが選ぶと、どっちかというとドロドロ系というか、雅楽も多かったね 湯浅:ヴォーカルがなかったしね。 村井:ということで、今日は湯浅さん、ありがとうございました。

(2013年11月30日 四谷「いーぐる」にて)